

撮影:2013年8月
水もしたたる……
この花に接近して写真を撮るのはなかなか大変である。なにしろ水が常時したたるような日陰の岩壁を好む植物だから。
ここに掲載した写真を撮った日は、雨の降った次の日だ。幸い、小さな沢の対岸で余り高くないところに自生していたので、湿っぽい空気の中、長靴を履いて流れる水の中にはいり、花に手が届くところまで接近することができた。
葉が大きくてタバコの葉に似ていることからこの名がつけられたという。その大きな葉は重さに耐えかねるように岩壁に垂れ下がっているが、花茎はすっくと立ち上がり、1本の茎に数個、星形で紅紫色の花を咲かせる。薄暗い岩陰で、きりりとした花姿に出会うと胸がときめく。まれに白花もあるそうだが、私はまだ見たことがない。
万葉集に何か所か出てくる「ヤマヂサ」がこれにあたるというのは牧野富太郎説だが、いや、ヤマヂサはイワタバコのことではないとする見解もある。この辺のことになると、私にはなんとも言えない。それはともかく、この葉は食べられるようで「ミソ汁でもマヨネーズ和えでもよく、生でもなかなかいける」(丸山尚敏)そうだ。そういわれても、貴重な植物の葉をちぎり採ってくるわけにはいかないし……。
<参考文献>
『山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花』(写真/永田芳男 解説/畔上能力 山と渓谷社)
『カラー野に咲く花1』(解説/丸山尚敏 山と渓谷社)
<記事 2013年8月18日>