
<撮影:2010年2月>

花は小さいがまとまって咲くのでよく目立つ <撮影:2015年3月>
春が待ち遠しい季節にいち早く黄色い花を咲かせてくれる、うれしい植物である。
和名には、枝にたくさんの花をつけることから満作という、という説や、「まず咲く」がなまったという説などがあるようだ。東北弁は詳しくないが、「まんず咲く」とでも言って、それがマンサクになったというのが、私が肩入れしたい説である。
春とは名ばかりで肌を切り裂くような冷たい空っ風が吹いているのに、細くて黄色い花をいっぱいにつけているマンサクの樹の周りだけは、別世界のようにあたたかい。ちぎり絵でこしらえたような花の姿が、そういう空気を醸し出しているのだろうか。
そんな、一見ひ弱そうに見える花なのだが、写真の撮り方によっては、まるで別の植物のようにさえ見える(写真上)。
花弁が奔放に情熱的に乱舞している。その基部では、暗赤色の萼片が暗い空間を形作り、そこに小さな灯りをともすように雄しべの葯がうずくまっている。なんという妖しげな世界…。
遠くから見ているだけではわからない人間の内面を覗いたような気がして、ちょっとめまいを感じた私なのであった。
<参考文献>
『山渓ハンディ図鑑4 樹に咲く花』(写真/茂木透 解説/太田・勝山・高橋ほか 山と渓谷社)
<記事 2016年2月8日>