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ナエバキスミレ    苗場黄菫   スミレ科スミレ属

ナエバキスミレ
<撮影:2015年5月>

ナエバキスミレ葉
葉柄や茎が紅いのが特徴 <撮影:2015年5月>

幻のスミレ

いがりまさしの『日本のスミレ』には、日本にあるキスミレの仲間が亜種・変種・品種をあわせて20種ほど掲載されている。
 そのうち、『群馬県植物誌 改訂版』(1987年)に記載されているのは5種類。そのなかで私が見たことがあるのは、わずかに1種類(オオバキスミレ)にすぎなかった。
 ナエバキスミレは苗場山のほか、県内では谷川岳や利根川源流部、白砂山だけにあるものと聞いていたので、これも私にとって幻のスミレだった。
 そんな話を植物観察の大師匠に何の気なしに話したら、「もっと簡単に行けるところにあるよ」と、なんだ知らなかったのかとばかりに、かつて私が行ったことのある山の名を教えてくれた。しかも、山頂まで登る必要はなく、登山口から短時間で生息地にたどりつけるという。

ハイカーはみな知らぬと言う

その話を聞いて数日後、時期的にも例年の開花期だったので、写真もじっくり取るつもりで、重いマクロレンズと三脚を車に積んで、いつもよりずっと早い時間に自宅を出た。
 登山口から歩き始めると、イワカガミやミツバオウレンが咲いていた。上から2人連れのハイカーが来たので、「ナエバキスミレはどの辺にありますか」と聞いたが、そんなスミレは知らないという。本当に知らないのか、教えたくなくてとぼけているのかはわからなかった。
 かりに花が終わってしまったとしても、オオバキスミレに似た葉ぐらいは残っていそうだが、それすら出てこない。なんとなく不安になったが、さらに歩き続けた。
 また1組のハイカーが下ってきたので「黄色いスミレ、見かけませんでしたか」と聞いてみたが、「なんか、黄色い円い花があったね」とこれも要領を得ない。スミレの花を円いというだろうか。
 ますます不安に駆られたが、とにかく大師匠を信じて行くしかない。マクロレンズと三脚の重みが増したような気がした。

ようやく対面がかなう

などと書くと相当歩いたように思われそうだが、実際は、登山口から3〜400メートルというところに、ナエバキスミレがあったのだ。
 一見、3枚輪生のように見えるみずみずしい葉の上に、鮮やかな黄色の花が乗っている。ああ、これだこれだ、これに間違いない。
 しかも、登山道の脇、数十メートルにわたって群落をなしている。笹に隠れているわけではない。「さあ、私を見て」とばかりに、オープンに咲いているのだ。
 三脚を立て、マクロレンズをセットして、夢中で数十枚の写真を写した。地面に膝をつけて、花の内部や葉の裏までルーペで観察した。至福のひと時であった。

<参考文献>
『山渓ハンディ図鑑6 日本のスミレ』(写真・解説/いがりまさし 山と渓谷社)

<記事 2015年6月7日>

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